Armikrog.の背景ストーリー その9

こんにちは、いちすけです。
すっかり年末になりました。今年の後半は色々なイベントもすこしずつ開催できるようになって良かったと思います。まだ予断は許さない状況ですが、この調子で色々と戻っていくといいなと思います。

それでは、今回はArmikrog.の背景ストーリーの和訳の続きになります。
前回分はこちらからどうぞ。初回はこちらから見ることができます。

Armikrog.本編はこちらです。クレイメーションだけでも見る価値はあります。クレイマンクレイマンに比べるとムービーの時間がちょっと少ないような気はしますが。

それでは、いきましょう。

森での出会い

夜が明け、足の筋肉が痛みの中、シマリスのお喋りが聞こえてくる。昨日は低木の間を歩いたので、枝で服はずたずたになっていた。明るいうちに隠れ場所を見つけて、日が暮れるまで休んでいるのが良さそうだ。

私は木の上の頭ぐらいの高さの位置に、枝がコイル状に巻きついた大きな巣のようなものを見つけた。巣はまだ暖かい。巣の主は出て行ったばかりのようだ。シマリスの鳴き声も聞こえない不気味で静かな場所だった。巣の床面には、10㎝弱の三角形の歯がいくつか転がっている。これはイクトゥスノコギリワームの巣のようだ。私は新しい隠れ場所を探すことにした。

移動していると、右の方で何か動いたように見えた。次は左…、円筒状のものが地面を這っているようだ。目の前の丸太からも白い円柱が這い出ている。それらは集まっていき…一つの大きなイクトゥスノコギリワームとなった!

私はそれが合体しきる前に飛び出したのだが、目の前の地面からワームが飛び出てくる方が早かった。その口は、三角形の歯が回転ノコギリのように並んでいてとても残忍な形をしている。頭部は縦に割れていて、まるでとらばさみのような形だった。ノコギリワームには形を模倣する習性がある。おそらく、どこかでトラバサミを見かけたのだろう。やつは涎をたらし泡を吹きながら、私に向かって突進してきた。どうやら私はやつのごちそうらしい。ヤツが口を回転させながら歯を私に向かって放ってきた。ドゴォン!と音を立て、それは私の横の木に刺さる。私は逃げる方向を必死に探したが、そもそも私自身がどこにいるのか分からないほどにパニックになっていた。

ノコギリワームは地下に潜っていく。ポケットからアボミネートの指を取り出し、ワームが出てくるのを待っていると、肩をポンポンと叩かれた。振り向くと、あまりの衝撃に立ちすくんでしまった。なんとノコギリワームが、私そっくりの姿に擬態していたのだ!もちろんそれは明らかに私とは違うことは分かるが、ノコギリワームが擬態できる最高レベルの出来だった。肉片を組み合わせて骨格を構成し、私の姿勢に似せて立っている。その目は、死人のように私をじっと見据えていた。その手には私と同じように指の形をしたものが握られているようだ。

私がヤツに突進する前に、そいつの口は裂け、三角形の歯が私に向かって飛び出した。歯は横の木と私の肩にぶつかり、私は後ろの草むらに吹き飛ばされてしまった。アボミネートの指も地面に落としてしまい、どこにいったか分からない。

ワームが私に飛びかかってきた。私はヤツの口の上下に手を当て凌いだが、中からノコギリの歯が回転しながら私の顔に近づいてくる。私は無意識に紫色の毛玉に手を伸ばし、顔をそむけた。全てがスローモーションになった。目の前の土が沈んでいることに気付き、指を伸ばしてドングリを取り、紫色の毛玉と一緒にノコギリワームの顔に突っ込んだ。ノコギリワームの意識はドングリの中に入り、ぐったりと動かなくなった。私は毛玉をしまい、ドングリを拾い上げる。シマリスが出てきて、空気の匂いに鼻をすんすんとうごかしている。私がドングリを地面に放ると、シマリスはそれをくわえて自分の巣穴へと戻っていった。私はアボミネートの指を見つけて拾い上げた。

ノコギリワームの渓谷を後にした私は、冷たい小川を見つけた。水をごくごくと飲むと、その冷たさが渇いた喉を潤してくれた。私は洗礼を受けるかのように顔を洗った。

目を開けると、川の向こうに緑色をした女の子が立っている。私は固まってしまった。彼女は大きな瞳でしばらく私を見つめたあと、数歩後ろに下がり、またずっと私を見つめている。彼女の顔に微笑みがこぼれた。彼女は私に自分を捕まえてみろと言っているのだと理解した。人間は森で緑の少女を追いかけてはならない、という妖精の話はよく知っていた。追いかけてもいい結果にはならないだろう。

「私はツルクだ。」

私が立ち上がると、彼女はさらに数歩下がり、微笑んだまま私を見ている。私の直感は知識を裏切った。正しい判断と間違った判断の区別は今の私にはつかなかった。

「君は誰だい?」と私は尋ねた。

今度は眉をひそめ、鼻に皺をよせて怒るふりをしてみた。彼女は首を横に振って、私に向かって指を振った。彼女の指の動きに合わせて光がキラキラと輝き、残像を残しながら消えていった。

彼女はさらに数歩下がり、微笑んだ。今度は私が餌に食らいついてしまった。私は彼女を追いかけた。彼女は口から笑い声を溢れさせながら走った。彼女の笑い声はとても純粋で自由だった。その声を聞いて、私の心は絶望から解放された。そして、とても久しぶりに笑った。

彼女の足はとても速かった。私はついていくのがやっとで、まして彼女を追い越すなんて無理だった。ふと私の足が森のリズムのようなビートに気付いた。そして、それに合わせると私の足は一層速く動いた。

雑木林の中で緑の少女を見失った。彼女がどっちへ行ったかが分からなくなったので、立ち止まって足音を聞いてみた。すると、額に松ぼっくりが当たって、彼女の笑い声が聞こえてきた。私は彼女の声のする方へ向かった。シダの陰から彼女の足が出ているのが見え、シダは彼女の笑い声で揺れていた。私は彼女の足元へ飛び込み、両手で足を掴んだ。彼女は歓喜の声を上げ、私たちは地面に倒れた。私の胸と顔は豊かな黒い土にたたきつけられたが、転がりながら笑い転げた。

私は彼女を助け起こした。彼女は私に微笑んだ。

「やっと捕まえた!」そう私が言うと彼女は言った。

「捕まったのは私じゃないよ!」

いつの間にか私は四方を緑の人々に囲まれていた。彼らは木々や茂みの陰から出てきて、私たちを見ていた。その中の男たちは、弓や長い槍を持っていた。彼らの周りにはキラキラとした光が漂っていた。

私は両手を挙げて降伏した。あまりに人数が多いため、アボミネートの指を使っても逃げられないだろうと踏んだからだ。最も近くにいたものが地面に伏せるように合図をしたため、私はそれに従った。

一人の男が笑い出した。私はまったく面白くない。私は眉をひそめたが、その動作がさらに笑いを誘うようだ。小さな女の子は私の隣に伏せ、私の姿勢としかめっ面を真似た。さらに笑いが起こった。

その時、笑いがぴたっと止んだ。周りを見渡すと人影が消えている。少女の方を見ると、彼女も居なくなっていた。

私は膝立ちのまま「もし」と呼びかけた。

遠くない場所から女性の声が聞こえた。「誰か「もし」って言ったかしら?」

「私だ!」と答えた。

近くで茂みが揺れている。藪の中で大変なことになっているようだ。

「「私」ってだあれ?」と見知らぬ人は尋ねた。

「私はツルク!君こそ誰だ?」と呼び返した。

すると彼女は茂みからこちらへ出てきた。彼女の長い茶色の髪が分かれ、私は彼女の顔を見ることが出来た。私は心臓が止まりそうになった。そこに居たのはメーヴァだった。


それでは、今回はこの辺りで。
また来てくださいね。

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